監修 コンテンツプロデューサー堤栄二氏よりのメッセージ

このミュージカルのテーマは、「片思い」である。

ひとりの男が恋をして、ひとりの女はその恋に気づかないまま、この世を去っていく。偶然の出会いから始まり、想いを伝えられなかった男の後悔で終わる。淋しさではない。悲しさでもない。あえて言うならば、せつない恋の物語である。そして、このミュージカルには、男と女、たったふたりしか登場しない。さらに、派手な音楽も、大がかりな舞台装飾も、きらびやかな衣装もなく、演出はいたってシンプルである。

言うまでもなく、ミュージカルはエンターテイメントだ。キャスティング、音楽、舞台装飾、衣装など、派手であればあるほど観客にインパクトを与え、観客は喜ぶ。また、話題性もあるため、興行的な利益も期待できる。もちろん、神尾氏もそんなことは百も承知だろう。しかし、あえて彼は、そのすべてにおいてシンプルにこだわった。正直、最初に話を聞いたとき、私は戸惑った。観客が怒って帰ってしまわないかと心配になった。だが、話を聞くうちに、私はこの作品に興味がわいてきた。それは彼の話の中から、日頃見せない神尾氏の野心を見たからである。どんな人間にも、欲がある。多くのものを手に入れようとするものである。そして、人間はそれを手にするために、下げたくもない頭を下げ、笑いたくもないときに笑う。

 ただ、いつのまにか自分が手にいれようとしていたものが何だったのか、わからなくなることが多い。これは、欲が、本来の自分を見失わせてしまうからだ。神尾氏は、ただひとつの野心のために、その欲を捨てて今回のミュージカルに挑んでいる。アーティストとしてただひとつの野心、つまり“観客に感動を与える”ことだけにこだわったのだ。確かに、片思いのストーリーに派手なパフォーマンスはいらないと私も思う。華美な演出は、かえってテーマをぼやけさせてしまうだろう。ただ、すべてを捨てるには勇気がいる。エンターテイメントとして考えるならば、すべてをシンプルにするのはリスクが大きい。しかし、彼は「自信がある」と私に言った。「感動とインパクトは似て否なるものだ」とも言った。

 この言葉は、アーティストとして野心のない男には言えない。そして、野心のないアーティストには、見る者聞く者を魅きつけることはできない。私も物書きのひとりとして、そのことはわかっているつもりだ。だからこそ、最終的には監修を引き受けたのである。恐らく、“より多く”の観客に感動を与えるという、神尾氏の次なる野心は、すでに動き始めているだろう。そう考えると、このミュージカルは、次回作のイントロが始まったに過ぎないのかもしれない。

 これから先、神尾氏がどれだけ多くの観客を魅了できるのか、私は期待している。彼の野心から生まれてくるラブストーリーが、どう展開していくのか楽しみである。また、できるならば、今これを読んでいるあなたにも、期待していただきたい。そして、同じとき、同じところで、同じ話を通して、同じ感動を味わっていただきたい。

コンテンツプロデューサー 堤栄二氏について

 今話題のインターネット恋愛の生みの親。氏がプロデューサーを努める国内最大の有料系出会いサイト「出会いのネットワーク」は現在、累計会員数33,000名、月間1200万HITを数え、そこに連載中のエッセイは、10万人を超える読者を抱えます。

 また「インターネット年鑑97」「ネットdeゲット」(技術評論社発行)の著者としても知られ、「ウンナンのホントのところ」のゲスト解説やNHK、新聞等々における多数のインタビューなど、ネット恋愛に関する様々な分野でご活躍中です。




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